■世界三大銘茶の一つ、ダージリンと言うとそれ一種類のような気がしてしまうが、実はダージリン地方で作られた紅茶のことで、その茶園は有名なところだけでも38もある。それらは大小、高低の差も含め、不思議なことに同じ一芯二葉で摘まれた生葉が、全て違った風味の紅茶に仕上がってしまうのだ。たとえば味について言えば、パンジェンシーと呼ばれる快い刺激的な渋味を多く含むもの、キャンディをなめた後のような甘い余韻を残すもの、濃厚な強い渋味と、ぐっとくるような重いコクを感じさせるものと、千差万別である。
■香りや水色もそれに伴って変化する。一般的にはマスカットフレーバーなどと一言で説明してしまうが、マスカットだってまだ早生のものと、よく熟したものとでは全く違う。ましてやマスカットでなく、紅茶となると表現はもっともっと多様化するのが当然である。ある人はピーチのような、いや、パイナップルかマンゴスチンのような香りと思い、ある人はバラやすみれの花の匂いにたとえたりもする。
■水色だって一通りではない。茶葉の量にもよるが各工場の作り方、発酵のさせ方によって、同じ薄い橙色が赤味がかったり、黄味が強かったり、黒っぽいのだってある。
私が訪れたグームティの工場長、マハルシさんが語った。「以前、レコードプライスを付けて、ナンバーワンになった茶園も、ずっといい紅茶を作り続けられるわけではない。品質は年々変るのですよ」
■これには驚いた。おいしい、すごい、と言われた有名な茶園が永遠ではないのだ。ファーストフラッシュもセカンドもオータムナルも、いつ作るか、どこで作るか。そして最も重要なことが誰が作るか、ということだ。いつ作るかは、シーズンと茶摘みの時期の見極めである。どこ、とは栽培地の標高や日照条件のことだ。そして誰、とは、その工場で鑑定をし、茶葉を揉む回数を決め、発酵の度合いを決定する「味付け士」、つまりマハルシさんのようなティーテイスターである。
■今回は、アンボーティア(Ambootia)、ジュンパナ(Jungpana)、セリンボン(Selimbong)の他に、6大茶園のダージリンを飲み比べていただこうと用意した。
シーヨック(Seeyok)、マーガレットホープ(Margaret's Hope)、グームティ(Goomtee)、キャッスルトン(Castleton)、ミム(Mim)、ジェル(Gielle)。
■一つずつゆっくり、じっくり味わっていただきたい。そっと目をつぶって、一体どこで誰がこの茶を作ったのか想像してみるのも楽しい。私の場合ジュンパナやグームティを飲むと、ふと、あの丸顔の優しい工場長の顔が浮かんできてしまうのだが。 |