■秋風とともに熱い紅茶が一段と美味しくなってきた。同じダージリンでも、ファーストフラッシュのように爽やかな、すっきりとした刺激的なものと、深い重みとコク、そして、ほのかに甘みを感じさせる濃厚な秋摘みのものがある。
■秋摘みのものを、オータムナルティーという。9月に入ってくると、ヒマラヤ山脈から吹き降りてくる風がいっそう冷たくなり、今年最後に芽を出した新葉が、力を振り絞って伸びてくる。温暖だった2番茶や3番茶と違い、気候的には、ファーストフラッシュを摘むあの春先の冷たさと同じだ。
■昼間の短い秋の陽光をできる限り吸い込んだ新葉に、夕方の冷たい霧が、薄く絹のように包んで行く。茶摘みの人達もこれを摘み終えたら今年の仕事は終わりである。茶木も人も休みに入る。
■出来上がったオータムナルの味は、思いのほかやさしくて穏やかな感じがする。もし、ブラックティーで飲むならば、茶葉は、さじに大盛りにせず、やや控えめにし、いや、出来れば、さじなどは使わず、茶摘みの人達が丁寧に一つ一つ摘んだように、指で一つまみ摘まんでポットに入れてみよう。指で触った瞬間から、もうなんとも言えない花束のような甘い柑橘類にも似た香りを感じることだろう。
■ティーポットに、ふたつまみほど入れ、沸騰仕立ての新鮮な湯を、できるだけ高い位置から茶葉めがけて注ぎ込む。すると、細かい泡と一緒に、ほとんど全ての茶葉が上に浮かびあがって、蓋をする時、ちょっと鼻を近づけると一瞬むせ返るほどの草いきれに混ざり、甘いフルーティな香りが立ち上ってくる。
■蒸らす時間をちょっと早めて、2,3分経ったらカップに注ぐ。水色は少し赤みがかった橙色。ひと口、ふた口とゆっくりすすると熟しきらない柿のような、甘いが、どこかに渋味を感じるような、そんな風味が舌に残る。ショートブレッドをかじって、もうひと口飲むと、少し塩味なバターの味とぴったり合う。
■もう少し置いておくと、ぐっと重い渋味になる。ダージリンの味を一生忘れさせない、というほどの強烈な渋味が、赤みがかった濃い橙色のなかに染み込んでいる。それならばと、ミルクをたっぷり入れ、ゆっくりとかき混ぜる。そのひと口は、「うん」、とうなずきたくなるほど完成されていて、味、香りともにミルクと調和している。
■ダージリンのオータムナル、そのホワイティー、英国式に低温殺菌の新鮮なミルクをたっぷり入れた飲み方だ。英国人が最も気取り、客に自慢げに出す時のミルクティーだ。
■「ティーフード」は、と聞かれたら、アツアツのアップルパイにクリームをたっぷり、なんていうのがいい。そう言えば日本もこの時期、栗、リンゴがまさに秋の味覚。オータムナルはここにもあった。 |